【コツ】発声の基礎

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発声の基礎

発声の基礎的なことを,習ったことや友人から聞いたことや本で読んだことを参考にしてまとめました.ただし,発声法は(音声学などと比べると)理論的に整っていないようです。

また,基本的と思われるところでも(生理学的に)まだ分かっていないことがあるようです。

■肺からの呼気で声帯が振動して音が作られ,声道を通って口(や鼻)から声として発せられる.

■以下で,よい声を出すための,体(姿勢),呼吸,発声(声帯から上の部分での)を見る.

体(姿勢)

■力みをとる. 声を出す前に,柔軟運動をするとよい.例えば,肩を回したり上げ下げする,首を前後左右に傾けたり回したりする,手や足をぶらぶらする,手首や足首を回す,腰を回す,手のひらや顔をマッサージするなど.

■演劇をしている人や本によれば([1],[3]),以下が発声によい姿勢のようだ. ○足:肩幅程度に開いている.足の親指の付け根,足の小指の付け根,かかとの3カ所に体重が均等にのっている.左右の足にも均等に. ○膝:ゆるめる.ただし身長が変わらない程度に.膝の方向と足のつま先の方向がほぼ同じになる。
○尻:しまっている。
○骨盤:まっすぐ。
○胴体(腹と胸):まっすぐ.猫背でもなく,胸をはってもなく。
○肩と首:力が入っていない。
○手:肩からストンと落ちている。
○頭:胴体の上にスッとのっている.天井から頭が糸でつり下げられているイメージ.目線はほぼ水平に. ただし,声楽でよいといわれる姿勢は,以下とはまた違うようだ.(例えば,骨盤は発声に合わせて動くそうだ.)

■自分のいる「場」を意識する.そして,「場」の中の自分を意識する.声に出して伝える気持ちを大切にする.

呼吸

■通常より多くの息を吸ったり吐いたりするために,少なくとも次の3つの呼吸法がある。

(1)順式の腹式呼吸 腹部を膨らませることで横隔膜を下げて息を吸い込み,逆に腹部をひっこめることで横隔膜を上げて息を吐く.上腹部(横隔膜の下辺り)から下腹部(股関節の辺り)まで,さまざまな筋肉を使う.仰向けになって深呼吸すると,腹部を膨らませて肺に空気を入れ,腹をひっこめて肺から空気を出す感じをつかみやすい.

(2)背中呼吸(わき腹呼吸) 背中やわき腹を広げることで横隔膜を下げて息を吸い込み,逆に背中やわき腹を狭めることで横隔膜を上げて息を吐く.馬のように四つんばいなって深呼吸すると,背中やわき腹を広げて肺に空気を入れ,狭めて肺から空気を出す感じをつかみやすい.さらに,息を吸い込むとき,背中の下半分だけでなく,背中の上半分(肩甲骨の下あたり)も広げる意識をもつとよい.

(3)肩を上下させる呼吸……肩や首に余分な力が入るので発声のときには避ける 胸をはり肩を上方と後方に移動させて息を吸い込み,逆に胸を狭めて肩を下方と前方に移動させて息を吐く.運動選手が全速力で走ったあとに,ぜいぜいと肩を上下させて呼吸している姿を思い浮かべると感じをつかみやすい.

■腹式呼吸の正確な定義はない(はず).一般的には,上の(1)(2)を合わせたものを腹式呼吸または深呼吸というようだ.通常の呼吸でも横隔膜は下がるが,横隔膜の下がる距離は,安静時呼吸の1.5cm程度に比べ,深呼吸では6~7cm以上にもなる.演劇や声楽など,大きな声や一息で長く声を出す場合には,腹式呼吸による呼吸法で一回に出入りする空気量を増やすとよい.

■息は鼻から吸う.吸気が鼻腔を通ることで,適度な湿度と温度を保つことができる.(口から吸うと,声帯が乾燥しやすい.)また,鼻から息を吸う方が口から吸うより落ち着くらしい.ただし,素早く大量の息を吸い込む必要があるときは,口から息を吸う. 発声(響きがあって通りのよい声を出すために)

■最初に書いたように,肺からの呼気で声帯が振動して音が作られ,声道を通って口(や鼻)から声として発せられる.

■響きがあって通りのよい声を出すために (0)姿勢と呼吸 肩や喉など声帯の周囲の力を抜く.声の支えは腹筋と背筋で. 「体(姿勢)」の項の姿勢をとり,「呼吸」の項の腹式呼吸をするとよい(ようだ).
(1)声帯の振動……音の生成 声帯がうまく閉じた状態になるとよい.声帯がゆるんでいる状態だと,息を沢山使っても(息がもれて)声に変わらない.逆に,声帯が過度に閉じた状態(緊張して力みすぎの状態)だと,声帯に負担がかかる.呼気を声に変えるときは,息を流すという意識で.
(2)声道……音の共鳴 空のビンの口にうまく息を当てると,音が共鳴して大きくなることがある.自分の声道を筒と思って,音が共鳴して響きが出る状態を探す.そのために,声の高さ,声の強弱,喉の開き具合(あくびは喉が開いた状態)などを試す.
(3)口(や鼻)から……音の放射 表情筋(顔面筋)を使って頬を上げ,口の中の空間を広げるとよい.

■なお,発声法もより高度になると,状況に応じて,口の中の空間のどこをどう広げるかということになるようだ.また,状況に応じて,腹式呼吸のための筋肉の使い方をいろいろ変えるようだ.

声の大きさ

■声は,相手のちょうどいる場所に届くように出す.二人だけの会話のときや,数十人を相手にした会議のときなど,「場」に応じて声の大きさと向きをコントロールする.

■大きな声を出すとき 声の強さは呼気圧で決まるから,大きな声を出すために次の2つの方法がある.
(1)息を強く出す.腹筋や背筋を使って横隔膜を上げて,呼気が声帯を通過する勢いを増す.
(2)声帯の閉じ方を強くする.つまり,喉に力を入れる. 声帯に負担をかけるので,(2)の喉に力を入れた声は避ける.(1)の方法で,しっかり呼気を通す.ただし,通りがよく響きのある声を出せていれば(上の項を参照),大きな声を出す必要はそれほどないと思う. 声帯は激しく振動を繰り返していると,障害が起きる場合がある.大きな声でずっと話し続けることはなるべく避ける.声の酷使で声帯を痛めたら,声を出さずに喉を休める.必要なら耳鼻咽喉科に行く。

■母音と子音 日本語の発音で母音は目立つ.「ン」を除く全ての音に母音がついていて,母音で終わる.さらに,一泊の音の中で,母音が長く発音される.例えば,「KA」の発音で母音「A」は長さの8~9割以上を占める. 子音は一泊に占める時間が短い.その短い間で音の種類の区別をはっきりさせる必要があるので,調音点がずれないようにする.例えば,「シ」を「スィ」と発音しないようにする.

また,「ラ」と「ダ」も似ているので気をつける.

■アクセント 日本語(の多くの方言)は,高さアクセント.語ごとに高さに関する決まりがある. 例: 以下,高いと感じられる音に●を,低いと感じられる音に○を用いる.また,●から○へ音程が下がる音に▼を用いる. 飴(あめ) ○●(札幌) ○●(東京) ●●(京都) ●●(神戸) ○●(大分) ●○(鹿児島) 雨(あめ) ○●(札幌) ●○(東京) ○▼(京都) ○▼(神戸) ●○(大分) ○●(鹿児島) 仙台や熊本の方言は無アクセント.自分の生まれ育った土地の方言を大切にしたらよいと思う.

■リズム 日本語(の多くの方言)は,泊リズム.拍(モーラ)が心理的にほぼ等しいと感じられる長さで現れることによって引き起こされるリズム.さらにいくつかの拍がひとまとまりになってリズムを作り出しているといわれる.

例: 病院は「びょ・ー・い・ん」と4泊で,美容院は「び・よ・ー・い・ん」と5泊で発音する. 例: 俳句は休止の時間も含めて8泊がひとまとまりになっているらしい. なのはなや○○○ つきはひがしに○ ひはにしに○○○ (○は休止) 菜の花や月は東に日は西に (与謝蕪村)

■イントネーション(抑揚)と間 文や発話全体に関わる高さの変化をイントネーションという.原則的なイントネーション(自然下降)は,意味のかたまりごとに,音の高さが一度上がってからゆるやかに下がる「小さいへの字」を描き,さらに,「小さいへの字」が繰り返されて「大きなへの字」を描く. 例: 「友達が学校から歩いてくるのに偶然出会った」という文の発話を考える(

意味のかたまりは,「友達が」「学校から歩いてくるのに」「偶然出会った」の3つに分かれる.音の高低が,それぞれのかたまりで「小さいへの字」を描き,文全体で「大きなへの字」を描くように発話する. イントネーションと深く関係するものに間(休止)がある.間の働きに,発話において構文上の重要な切れ目を示す,息継ぎをするなどがある.

■発音練習

以下は滑舌のためによく使われる. ○「あえいうえおあお かけきくけこかこ (中略) わえいうえをわを」 ○北原白秋の「水馬(あめんぼ)赤いなあいうえお」で始まる50音の歌. ○2代目市川団十郎の「拙者親方と申すは」で始まる外郎売り(ういろううり)の科白. ○いわゆる早口言葉.(ただし早口でしゃべる必要はない.)「上賀茂の傘屋が紙屋に傘借りて,加茂の帰りに返す唐傘」など.
○ラ行とダ行の区別に「らだりぢるづれでろど」 (英語の滑舌なら,th音の練習に “Three free things set three things free.” を用いるといったところか.また仏語の滑舌なら, “Un chasseur sachant chasser chassait sans son chien.” や “Si ces six scies-ci scient ces six saucissons-ci, ces six cent six scies-ci scient ces six cent six saucissons-ci.” を用いるといったところか.)

参考文献など [1]舞台俳優が講師の発声練習(グループで半期)を受けたことがあり,そこで聞いたこと. [2]声楽の発声練習を受けている友人(かなり上手いみたい)から聞いたこと. [3]Patsy Rodenberg, The Actor Speaks: Voice and the Performer, Macmillan (2002). 最初の2章を読みました.同じ著者による他の本も眺めましたがそれは精神論が多かったです. [4]秋山和平『あなたが生きる話し方』NHK出版.ただし,アナウンサーの話し方(ガ行鼻濁音を含む共通語アクセントなど)がお手本と私は思わないです. [5]本郷利憲ほか『標準生理学』医学書院.「運動機能」の章の「発声と構音」,「呼吸」の章を参照しました. [6]斎藤純男『日本語音声学入門』三省堂.「日本語の発音」の項を書くときに参考にしました。