鍛冶屋の合唱  ~ 歌劇 「イル・トロヴァトーレ」 より ~

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Giuseppe Fortunino Francesco Verdi
Vedi! le fosche notturne spoglie
 ≪Il Trovatore≫ ATTO SECONDO Parte Seconda: La Gitana

アンヴィル・コーラス。 打ち下ろす金槌のリズムにあわせて、ジプシーたちがうたう。

 Coro di Zingari  《直訳》 ジプシーの合唱
Vedi! le fosche notturne spoglie  見ろよ 夜の暗い衣を
de’ cieli sveste l’immensa vôlta:  はてしない大空が脱ぎ捨てる
sembra una vedova che alfin si toglie  とうとう後家さんがそれまで着ていた
i bruni panni ond’era involta.  黒い服を脱ぐようなもの
All’opra, all’opra!  さあ 仕事だ 仕事だ
Dagli.  Martella.  金槌をよこせ
Chi del gitano i giorni abbella?  誰がジプシー男の暮らしを彩ってくれる?
Chi del gitano i giorni abbella, chi?  誰がジプシー男の暮らしを彩ってくれる?
chi i giorni abbella?  誰が楽しくしてくれる?
Chi del gitano i giorni abbella?  ジプシー生活を楽しくするのは 誰?
La zingarella.  ジプシー娘さ!
Versami un tratto;  俺に一杯ついでくれ
lena e coraggio il corpo e l’anima  体力 気力を 身体も心も飲んで
traggon dal bere.  ひっぱり出すんだから
Oh guarda, guarda… del sole un raggio  そら ごらん ごらんよ 太陽の光が
brilla più vivido nel tuo/mio bicchiere!  この杯のなかでますます元気に輝いている
All’opra, all’opra…  さあ 仕事だ 仕事だ
Chi del gitano i giorni abbella?  誰がジプシー男の暮らしを彩ってくれる?
Chi del gitano i giorni abbella, chi?  誰がジプシー男の暮らしを彩ってくれる?
Chi i giorni abbella?  誰が楽しくしてくれる?
La zingarella, la zingarella,  それはジプシー ジプシーむすめ
La zingarella.  ジプシー娘さ!

《日本語歌詞》

  ジプシーの合唱

みろよ みろよ 暗い おおぞら
ぬぐぞ 闇の ころもを
夜明けは 後家さん はれて
喪服をぬぐに よく似たものさ

さあ 仕事 仕事
とれ 槌(つち)を

われらジプシー 仲間と暮らしゃ
ともに働き ともに楽しむさ
その楽しみは?
楽しみは それはなに?
かわいいむすめさ

つげよ さあ!
酒こそ力 勇気
がんばろう

みろよ みろよ 酒に ひかる
おおぞら 太陽 輝き

さあ 仕事 仕事

われらジプシー このいきざまに
花をそえる かわいいものがある
それ それはなに?
それはジプシー ジプシーむすめ
ジプシーむすめさ

  アンヴィル・コーラス

夜の幕の裂け目を
のぞく 朝日の光
喪が終われば 後家も
黒の装束をぬぎすてる

取りかかれ
さあ 槌(つち)だ

誰が祝うか ジプシーの日を
誰が祝うか ジプシーの日を
さあ 祝うは誰か
祝うのは それは誰?
ジプシーの日を

酒盃(さかずき)を
酒がありゃこそ 腕に
血がめぐる

これを見よ お日様の光が
酒盃に照る

取りかかれ

誰が祝うか ジプシーの日を
誰が祝うか ジプシーの日を
さあ 祝うは誰か
祝うのは それは誰?
ジプシーの日を

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ヴェルディの作品の中期における傑作のひとつで、前作 《リゴレット》、次作 《椿姫》 とともに一般に
ヴェルディ三大ポピュラー・オペラと呼ばれています。
トロヴァトーレとは吟遊詩人のことで、ここではマンリーコを指しています。
原作は1836年8月にマドリードの初演で空前の成功をおさめた、スペインの作家、アントニオ・ガルシア・グティエレスの戯曲 『エル・トロバドール』。
15世紀初頭に起きたスペインの王位継承をめぐる争いを背景としています。
1410年5月、アラゴン王マルティン1世が亡くなり、カスティリア王子フェルナンドとハイメ・フォン・ウルゲル伯爵が王位をめぐって内戦状態になりました。
結局、ウルゲル伯爵は破れ、1424年、フェルナンドが王位につきました。
戯曲やオペラには直接、王位継承争いは出てきませんが、スペインの古い貴族であるルーナ伯爵はフェルナンドの腹心の部下であり、
一方、騎士であり、吟遊詩人であるマンリーコは反逆したウルゲル伯爵側の人物として、伯爵の性格を反映しているといわれています。

オペラの台本をかいたカンマラーノは未完のまま亡くなったため、第三幕の一部分と第四幕全部がL・E・バルダーレという作家によって引き継がれ、完成されました。
各幕には、それぞれの性格を暗示する <決闘> <ジプシー> <ジプシーの子> <処刑> という副題がつけられています。
初演は1853年1月19日、ローマのアポロ劇場。
ヴェルディの名声はすでにゆるぎないものとなっており、前作のリゴレットで評判を確立していただけに、 この初演は大変な期待をもって待たれており、そして十分な成功をおさめました。
しかし音楽は素晴らしいが、ストーリーが馬鹿げていて一貫性がないというのが一般的な評価でした。
その理由のひとつに、幕間の時間経過の分かりづらさがあると思います。
復讐の原因となるアズチェーナの母親が火あぶりにされたのが15年だか20年前の出来事であり、さらに第1幕と2幕の間には
決闘で勝利したものの、マンリーコはデ・ルーナ伯爵を見逃し、その後、王位継承をめぐるペリッラの戦いで、逆にデ・ルーナ伯爵に深手を負わされ、
それをアズチェーナが手当し、傷がいえてきた頃、つまり1年ほどの時間経過の後に第2幕が始まります。
そういう事情を知らず初めて見ると、ストーリーがとんでいて、よく分からないと思うかもしれませんが、現在までこのオペラが上演されているという事実は
ヴェルディの判断は間違っていなかったというなによりの証明ではないでしょうか。
このオペラには歌唱上最高の技巧が要求され、中期を迎えたヴェルディがイタリア・オペラの伝統である旋律性を最大限に発揮した傑作といわれています。

「イル・トロヴァトーレ」 のあらすじ

スペインのアラゴン王国の王マルティン1世の死後、カルティリアの王子とウルヘル伯爵との王位継承をめぐる内戦という実際の出来事を背景としています。
デ・ルーナ伯爵はカスティリア側につき、マンリーコはウルヘル伯爵側で、敵対しています。

第1幕 [第1部:決闘]  ATTO PRIMO [Parte prima: Il uello]
15世紀はじめ。 スペインのアラゴン王国の首都サラゴサのアリアフェリア宮殿内の玄関口。
夜、デ・ルーナ伯爵の護衛の者たちや従者の眠気覚ましにと、伯爵の家臣フェルランドが伯爵家の昔話をはじめる。
デ・ルーナ伯爵にはガルシアという弟がいたが、幼い頃、ジプシーの老婆が部屋に入り込む事件が起きた。
老婆はとらえられ、のちガルシアの具合が悪くなったことから、妖術をかけたとして火あぶりにされたが、
彼女の娘が復讐にガルシアをさらい、老婆が焼かれたあとに生焼けの幼児の骨が見つかった。
ガルシアの骨と思われたが、先代の伯爵は子供の死を信じず、あとをついだ現伯爵に弟を探すよう言い残した。
しかしフェルランドが必死に行方を探したものの、そのジプシー女は見つからず、なんの手がかりもない。
以後、火あぶりにされたジプシーの老婆の怨念がカラスやフクロウに姿を変え、ついに彼女を殴った伯爵の従僕が恐怖に死んだと話し、
全員が迷信におびえているうちに真夜中の鐘が鳴る。
一方、宮殿の庭では王妃の女官レオノーラが恋人を待ちわびていた。
侍女イネスに尋ねられるままに、レオノーラは武術大会であった騎士のことを語り、先日吟遊詩人の姿でセレナーデを捧げてくれたと話す。
あの方のために生きるのでなければ、あの方のために死ぬという一途な愛に、イネスは不吉な予感を覚える。
レオノーラに恋焦がれるデ・ルーナ伯爵が階段のほうに近づいたとき、吟遊詩人の声が聞こえ、伯爵は嫉妬に震える。
現れたレオノーラは夜の闇で伯爵を吟遊詩人と勘違いし、駆け寄る。
「不実な女」 失望した吟遊詩人の声にレオノーラは人違いに気づき、吟遊詩人の足元に身を投げて許しを乞い、愛を告げる。
激怒する伯爵は吟遊詩人の名を問い、ウルゲル伯側の戦士マンリーコだと知ると、決闘を挑む。
ふたりは抜き身の剣を手に遠ざかり、レオノーラは気を失う。

第2幕 [第2部:ジプシーの女]  ATTO SECONDO [Parte seconda: La gitana]
夜明けが近い、ビスカヤ地方の山のふもと。
ジプシーの一団があたりに散らばり、鍛冶の仕事にとりかかっている。
火のそばに腰をおろすアズチェーナのそばに怪我を癒すマンリーコが横になっている。
アズチェーナは火あぶりにされた女の歌をうたい、マンリーコに敵(かたき)をとってくれとつぶやく。
ジプシーたちが下の村におりていったあと、マンリーコは歌のもとになった実話を尋ねる。
アズチェーナはマンリーコのおばあさん、つまり自分の母親が罪をきせられ火あぶりにされたことを語る。
そのとき敵をとってくれと叫んだ母の言葉が胸に残り、伯爵の子供をさらい、火につっこんだと。
だがふとあたりを見回すと伯爵の子が目の前に見えた。間違って自分の子を焼いてしまったのだ。
苦悩するアズチェーナ。マンリーコは恐怖と驚きに言葉を失うが、なら自分は誰なんだという疑問を抱く。
アズチェーナは錯乱すると意味のわからない言葉を発してしまうといい、なおもいぶかるマンリーコに
デ・ルーナの部隊と戦ったペリリャの戦場で、重傷を負ったマンリーコを助けたのは母だからこそといい、
逆に、なぜ決闘に勝ったのに、デ・ルーナを殺さなかったのかと責める。
討ってはならぬとの声が聞こえたというマンリーコのところに伝令がやってきて、
おとしたカステルロール城の守備につくように、そして彼が死んだと思ったレオノーラがクローチェの修道院に入ると書かれた手紙を持ってくる。
マンリーコはアズチェーナが必死にとめるのも聞かず去っていく。
修道院の中庭の回廊。レオノーラをあきらめられないデ・ルーナ伯爵は修道院へ入るまえにレオノーラをさらおうとしている。
修道院へ向かうレオノーラのまえに立ちふさがり、奪い去ろうとしたとき、死んだと思われていたマンリーコが登場。
マンリーコはレオノーラを連れて去り、伯爵は無念さに激昂する。

第3幕 [第3部:ジプシー女の息子]  ATTO TERZO [Parte terza: Il figlio della Zigara]
カステルロール城攻めを明日に控えるデ・ルーナ伯爵の野営地。
近くをうろついていたあやしいジプシーの女を捕らえたとフェルランドが報告する。
引き出されたのはアズチェーナ。彼女とのやりとりから伯爵はアズチェーナが恋敵マンリーコの母親であることを知り、
アズチェーナも伯爵が母を殺した男の息子だと知る。
アズチェーナの顔を見たフェルランドが、昔、伯爵の弟ガルシアをさらったジプシー女だと気づき、
伯爵はこれで弟の復讐とマンリーコへの恨みがはらせると喜ぶ。
カステルロール城内では、礼拝堂でレオノーラとマンリーコが結婚式を挙げようとしていた。
そこへアズチェーナが捕らえられ、火あぶりになるという知らせが入る。
マンリーコは母を助けに城の外へうってでる。

第4幕 [第4部:処刑]  ATTO QUARTO [Parte quarta: Il supplizio]
アリアフェリア宮殿の城壁の塔近く。闇夜にまぎれてマンリーコの部下ルイスとレオノーラがやってくる。
塔には明日処刑されるアズチェーナとマンリーコが捕らえられている。
レオノーラは決意を胸に右手の指輪の宝石を見つめ、やがて現れた伯爵にマンリーコの助命を求める。
しかし断固拒否する伯爵に、レオノーラは自分自身を差し出すと申し出る。
伯爵は喜び、マンリーコを逃がすことを約束する。その間にレオノーラは指輪に仕込んでいた毒をあおぐ。
牢獄のなかではマンリーコが、火あぶりにおびえ心乱すアズチェーナをなだめ、眠りにつかせていた。
そこへレオノーラが現れ、驚き喜ぶマンリーコ。
レオノーラは逃げるよう説得するが、特赦を得た代償を邪推したマンリーコは逆に愛を売ったと非難する。
しかしレオノーラが倒れ、毒をあおいだと知ると、自らの言動を悔い、悲嘆にくれる。
レオノーラが息絶え、だまされたと知った伯爵はマンリーコを即刻処刑台に引き立てるよう命令する。
目覚めたアズチェーナがマンリーコのことを問うと、伯爵はアズチェーナを窓のそばへ引きずり、処刑を見せ、息絶えたと告げる。
「あれはおまえの弟!」 事実を告げられ戦慄する伯爵。
アズチェーナは 「敵はとれたよ、母さん!」 と叫び、窓辺に倒れる。